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用語解説公開 2026-10-27

長期利益信託(Long-Term Benefit Trust)とは | 株主とは別に、取締役を選ぶ人たちを置くという仕組み

3行で捉える

  • 長期利益信託は、財務的な利害から切り離すよう設計された受託者(公表時点で5人)が、取締役の一部を選任・解任できるという仕組みです。
  • その人数は段階的に増え、4年以内に取締役の過半に達することになる、とされています。
  • 狙いは、株主の利益のほうへ取締役を押す会社法の既定の力に、別方向からの力を足すことです。

意味

英語ではLong-Term Benefit Trust、略してLTBT。Anthropicが2023年9月に詳細を公表した、自社の統治の仕組みです。以下は、その公表時点での設計です。受託者の顔ぶれはその後何度か変わっており、現在どこまで適用されているかは、同じページには書かれていません。

ふつうの株式会社では、取締役を選ぶのも、解任するのも、責任を問うのも株主です。報酬が株式で払われることも多い。だから取締役の判断は、株主の財務的な利益のほうへ押されます。これは悪意の話ではなく、仕組みがそうできている、という話です。

長期利益信託は、そこに別の主体を差し込みます。会社は、この信託だけが持つ種類の株式を作りました。その株式には、取締役を選任・解任する権限がついています。あわせて、会社や事業を大きく変えうる一定の行為について、信託が事前に通知を受ける定めも付いています。信託の受託者は、財務的な利害から切り離されるように設計されています。言い換えれば、お金の利害を持たない株主をひとつ作ったようなものだと当サイトは理解しています。

何のために作られたのか

同社の説明の軸は、外部性です。取引の当事者ではない第三者に及ぶ費用や便益のことで、工場の汚染や、金融システムのリスクが例に挙げられます。会社と契約する相手(顧客や従業員や取引先)は、条件の交渉を通じて自分の取り分を主張できます。でも、一般の人々は会社と契約していないので、その手段がありません。

同社は、AIはかつてない大きさの外部性を生みうると考えている、と書いています。安全保障のリスク、大規模な経済の混乱、人類への根本的な脅威から、安全や健康への大きな便益まで。そして、技術の進み方が速く、他の分野を縛ってきた法や規範がまだ追いついていない。だから統治のほうを調整した、という説明です。

PBCという形では足りない理由も書かれています。PBCは取締役が公益を考えることを法的に許すだけで、公益に対する説明責任を負わせるわけでも、動機づけを変えるわけでもない。そこを埋めるのが信託だ、という整理です(PBCとは)。

どこまでやる仕組みなのか

同社は、日常の判断には関与しない見込みだとしています。ふだんの経営では、公益と商業的な成功は対立しないことが多く、むしろ補い合う、と。信託が扱うのは、極端な事象と長期の論点です。挙げられている例は、将来のモデルを破局的なリスクについて慎重に評価させること、国家水準の安全管理を確保させること、市場に一番乗りすることを何よりも優先させないこと、といったものです。

権限を段階的に入れている理由も書かれています。会社が若いうちは簡素な統治のほうが機能しやすく、成熟して社会への影響が大きくなるほどチェックが重要になる、という仮説です。

見るべきところ

当サイトは、この種の仕組みを見るとき、次の三つを合わせて見ることを勧めます。

権限が、いま何段階目か。段階的に入る設計なので、今どこまで入っているのかで意味が変わります。

どうすれば変えられるか。同社には、受託者の同意なしに信託とその権限を変えられるフェイルセーフの規定があります。必要な株主の特別多数の比率は、信託の権限が入るにつれて上がる設計です。変えにくさの程度が、実質を決めます。

作った側が、何と言っているか。同社はこの仕組みを実験だと明言し、まだ他社に勧められる段階ではない、どう働くかを見たい、としています。当サイトは、この言い方を誠実だと受け止めています。そして2026年10月、同社は上場に向けた届出書を提出しました(登録はまだ効力を生じていません)。株主が増える場所で、この仕組みがどう働くかは、これから分かることです(レビュー)。

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Anthropic「The Long-Term Benefit Trust」(2023-09-19、脚注で構成の変更を追記)