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用語解説公開 2026-10-07

ゼロ・データ・リテンション(ZDR)とは | AIの提供元に入力と出力を残さない取り決めと、安全監視との板挟み

3行で捉える

  • ゼロ・データ・リテンション(ZDR)は、AIの提供元が、APIでやりとりした入力と出力を、処理のあとに保存しない取り決めです。対象の契約やモデルに限って付く条件で、全ての利用に自動で付くものではありません。
  • 2026年、これが安全監視とぶつかりました。強いモデルや、審査を通った相手に安全策を緩める枠では、提供元が「悪用を見張るためにデータを残してほしい」と求める例が増えたからです。
  • 答えは二つの方向に出ています。残さずに見張る(OpenAI、8月にプレビュー)と、残す場所を顧客側に移す(AnthropicのEFS、今秋提供予定)。実績はどちらもこれからです。

意味

ZDRは、英語のZero Data Retentionの略。データ不保持とも訳されます。AIをAPIで使うと、こちらが送った文章(入力)と、モデルが返した文章(出力)が、提供元のサーバーを通ります。ZDRは、その入力と出力を、処理が終わったあとに提供元が保存しないという取り決めです。

大事なのは、これが契約の条件だということです。対象となる顧客、対象となるモデルや機能に限って付くもので、APIを使えば自動で付くわけではありません。ChatGPTやClaudeのアプリを個人で使う場合とも別の話です。

企業がZDRを求める理由は単純です。社内の会議録、顧客の個人情報、未発表の設計——社外に出せない情報をAIに入れるとき、稟議でいちばん多い質問は「入力した内容はどこに残るのか」です。ZDRは、その答えを「提供元には残らない」にする条件です。

なぜ安全監視とぶつかるのか

悪用を後から見つけるには、見るものが残っていなければなりません。一回ずつの要求をその場で止めるだけなら、残す必要はない。でも、何回にも分けた悪用や、長い作業の途中でおかしくなるエージェントは、やりとりを並べて見ないと気づけません(オフライン監視とは)。

2026年、この矛盾が表に出ました。当サイトの記録では、Claude Fable 5は6月の提供時に30日のデータ保持が付き、他のClaudeモデルのZDRとは扱いが違いました(レビュー)。9月の生命科学の検証プログラム(LSVP)も30日の保持を求めています(レビュー)。10月6日に三段になったサイバーの検証プログラム(CVP)も、参加する組織に監視のためのデータ保持を求めます(レビュー)。

つまり、強い能力や、緩めた安全策を使いたいほど、データを残すことを求められる。審査を通った相手に制限を緩める仕組み(検証済みアクセスとは)は、通した後を見張ることが前提で、見張るには記録が要るからです。ZDRを必要とする規制業種ほど、この条件で足が止まります。

板挟みへの、二つの答え

残さずに見張る。OpenAIは2026年8月19日、対象APIでZDRを続けると表明し、新しい方式Private Safety Processingをプレビューしました。つながりのあるやりとりを並べて危険な兆候を見つけながら、社員は中身にアクセスしない。データは顧客の基盤に留まるか、OpenAI側に置いても顧客が持つ鍵で暗号化され、提供元に届くのは話の種類と深刻さの知らせだけ、という説明でした(レビュー)。8月の時点では、9月に展開を始める予定とされていました。

残す場所を顧客側に移す。Anthropicは2026年9月1日、Enterprise Frontier Safeguards(EFS)を発表しました。監視のためのデータを、Anthropicではなく顧客自身のクラウドに置ける仕組みで、鍵も顧客が持てる(週次)。10月6日のCVPの発表では、EFSは「今秋」提供予定で、それまではFable 5.1かMythos 5.1をZDRで使える組織に限り、CVPもZDRで使える、と書かれています。

二つは同じ制度ではありません。ただ向かう先は同じで、「見張る」と「提供元に残さない」を両立させることです。どちらも、実際の運用で何を捕まえ、何を見落としたかは、まだ公表されていません。

実務では、どう効くか

自社の契約がZDRの対象かを確かめる。ZDRは自動で付く条件ではありません。確かめずに社内資料へ「データは残りません」と書くと、後で困ります。モデルごとに扱いが違うこともあります(Fable 5の30日保持のように)。

強いモデルや緩めた枠を申し込む前に、保持の条件を読む。検証プログラムに申請するなら、保持の期間、保存場所、誰が見るか、を社内規程と顧客契約に照らす。保持を受け入れられないなら、EFSのような顧客側保管の方式を待つか、一般提供の範囲で使う、という判断になります。

社内でAIを配る側にも同じ問いがある。社員の利用ログを残すか残さないか。残せば不正に気づけるが、残すこと自体が情報の置き場所になる。ZDRをめぐる提供元の議論は、そのまま社内の設計の型になります(AI利用ガイドラインの作り方)。

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